ほっと一息

ほっと一息

2021.08.27

地域を豊かに 100カ所以上に散った畑で、約7000本。 国際大会で金賞を手にした群馬県太田市のオリーブオイル

JA広報通信8月号

ノンフィクション作家●島村菜津

 

 

 ある人に、群馬県太田市にある「株式会社 アグリみらい21」の山田茂さんの農園を案内していただいた。何と、湿気の多い利根川のそばで、約7000本ものオリーブの木を育てているという。しかも農薬を使わない。800本なら分かるが、あまりに数が多いので、いつか畑をひと目見たいと思っていた。

 「アグリみらい21」の「群馬県太田市産オリーブを搾ったエキストラバージンオリーブ」は、2015年「OLIVE JAPAN 国際エキストラバージンオリーブオイルコンテスト」で金賞を受賞した。これは国内最大の国際コンクールで、審査員20人の大半がイタリア、ギリシャ、スペインから招かれた外国人で、日本人は4人ほど、対象が誰の物か分からないブラインド・テイスティングである。この年は世界から約400の出品があり、うち12品が最優秀賞、152品が金賞を受賞した。金賞を手にした国産14品のほとんどがオリーブ栽培の歴史が長い香川県産などだが、その中で群馬県太田市産のオイルが受賞して話題となった。

国際コンクールで金賞を受賞したオリーブオイルを手にする山田茂さん

 

 

 

 山田さんは、家業の造園業から独立、「アグリみらい21」を創立し、野菜やスイカの苗木を作り始めた。やがて花も販売し始めたが、種子の高騰に不安を覚える中で、苗木で増やせるオリーブに出会った。最初はオリーブの鉢を売るのが目的だったが、5年もすると実が付き始める。小豆島の業者に搾油を委託すると、フルーティーで驚くほどおいしかった。そこで小豆島で搾油技術を学び、イタリアの搾油機を購入して自ら搾るようになった。翌年、オリーブオイルソムリエの資格も取った。

 そんなオリーブ畑を見たいと、この日、静岡からやって来たのは、一般社団法人静岡県オリーブ普及協会代表理事の近藤佳裕さんだ。近藤さんは静岡だけでなく、イタリアの高級オリーブオイルの聖地、トスカーナ州にも畑を持ち、本場でオリーブ栽培を学びたい日本人の研修を無料で行ってきた。

 「その代わりに、近くの畑で援農してもらうんです」。イタリアも少子高齢化により農業の担い手が不足し、休耕地が増えているという。

 オリーブ栽培の指導もする近藤さんは、山田さんの畑で「これほどの数があれば、剪定(せんてい)によってオイルの生産量はもっと増やせるはず」と目を輝かせた。

 昨年は寒波で木が枯れて本数がかなり減ったという。それでも山田さんは怯まない。この日も300本の苗を植えた。品種は約25種。休耕地にオリーブを植えてきたその畑は、今や約23haに増えた。

 「しかも100カ所に散らばってるの」と苦笑しつつ、目標は1万2000本で、化粧品も開発中だという。

 山田さんがうれしそうに、近藤さんに尋ねた。「あんたも変わり者って言われるでしょ」。近藤さんも返す。「4~5年は実もならない。しかもはやる前からオリーブ栽培を始めた僕らは、みんな変わり者です」。

 近藤さんは、地元でも、茶畑をオリーブ畑に替えて生き残りを図る農家に栽培指導をしている。楽しい予感がするこの日の出会いだった。

 

 

 

大きく成長した、観賞用としても親しまれているオリーブ「ミッション」の前で、

山田茂(左)さんと近藤佳裕さん

 

 

 

島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家。

1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生!』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。