ほっと一息

ほっと一息

2021.08.04

地域を豊かに 日本の福祉をリードするビストロ「Bストロ Amaゴリラ」

JA広報通信7月号

ノンフィクション作家●島村菜津

 

 

 名古屋の知人に、2020年8月に開業した面白いビストロを教わった。
 愛知県あま市の「あま市七宝焼きアートヴィレッジ」(2004年開業)の一角に生まれた、その名も「Bストロ Amaゴリラ」。
 元ヒルトンホテルの総料理長がテコ入れを手伝ったというその店では、お手軽なモーニング、フレンチと和のランチ、アフタヌーンティーが楽しめる。この日、いただいたフレンチのランチは、自家製パン、スープ、パスタ、メイン、ドリンクが付いて1430円(税込)。肉やハンバーグの選択肢もあり、地域の食材にこだわっている。しかもイケメンぞろいの少年たちが入れ替わり、立ち替わり丁寧にサーブしてくれる。たまたま、その時、店の隅で話し合い中だった運営団体「くらし応援ネットワーク」代表の岡部昭子さんによれば、このビストロ、実は、さまざまな生きにくい事情を抱えた少年たちの就労支援の場なのである。

前菜と本格的なオニオンスープ。自家製パン。紙のテーブルマットには、少年たちの手書きの言葉が書かれている

 

 

 岡部さんは、地元の甚目寺に嫁ぎ、貧困家庭や独居老人、施設帰りの少年など生きづらい人々の支援活動を始めた。今では、就労継続支援B型事業所や共同生活援助など幾つもの施設を運営している。日本では、少年院や鑑別所を体験した少年たちに偏見を抱く人はまだ多いが、岡部さんはこう言う。
 「人間だから失敗して当たり前。ましてや10代でしょう。でも、日本にはやり直せる場があまりにない。子どもたちの中には覚せい剤の問題などで、赤ん坊の頃から親と引き離されて、親の愛を知らずに育った子も多い。だから私たちで育て直し」
 「文字がちゃんと書けない子もいるからね」と、紙のクロスには、少年たちの手書きの言葉を書くようにしている。
 店を任されているのは、理事の松浦真琴さんだ。松浦さんはかつて家業を継ぎ、インテリア・コーディネーターとして働いていた。そんな中、琵琶湖がラムサール条約に登録された90年代、EU諸国に比べて日本の環境意識の低さに愕然とした。家族で環境に負荷をかけない建築問題に取り組む中、福祉施設の環境改善にも関わった。就労支援の店を始めようと岡部さんに相談を持ち込まれたときは即決だった。コンセプトをアンティークに決め、古い家具やオーディオを調達。その中に金のゴリラの置き物を見つけたことから、この奇抜な名が付いた。

理事の松浦真琴さん(左)と代表の岡部昭子さん(右)。「Bストロ Amaゴリラ」の一角にて

 

 

 今、松浦さんは、岡部さんたちと約20人ずつのグループホームで暮らす約140人の障害当事者さんを預かってその内約半数は10代や20代の少年、少女。接客でコミュニケーション力を磨き、料理や清掃の技を身に付ける飲食の場が意外な効果を上げているという。
 「彼らは大きな施設を飛び出したり、どの実習にもはまらない、いわば粒ぞろいの〈愚連隊〉でした。それが、毎日、お客さまと接することで変わってきたんです」
 血のつながらない事情を抱えた少年たちを育て直すのは、至難の業ではないかと問うと、松浦さんが、こう言った。
 「私たちは本当のお母さんではない。赤の他人です。だから、母としてのいらつきはない。今の彼、今日の彼女を見ることができる。大事なときは真剣にバチっと行きます」
 「くらし応援ネットワーク」は、今年、名古屋におにぎり屋も開業する予定だ。

 

 

 

島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家。

1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生!』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。