ほっと一息

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2021.01.17

地域を豊かに   地方再生のヒント(59) 地域の親睦深める隣人祭りの勧め

 JA広報通信2021年1月号

ノンフィクション作家●島村菜津

 

 

 「隣人祭りというのはね、昔、パリのアパートで1人の女性が孤独死したことをきっかけに、住民たちが、アパートの中庭に集まって、お互いのことをもっと知るために食事会を始めたのがきっかけですって。いい名前よね」

 

 そう教えてくれたのは、埼玉県小川町の「霜里農場」の金子友子さんでした。コロナ禍でイベントを企画しても大勢の人を集めることはできません。ならば、この機会に知っているようで案外と知らない、地域の住民の親睦を深めるのはどうか。ストレスのたまる子育て世代にも何かサプライズが欲しいね。というので、分校の校庭で、2019年11月3日、こぢんまりと企画されたのが、「小川町隣人祭り」でした。

食べたり、飲んだり、話や音楽を聴いたり、自由な隣人祭り

 

 

 

 「霜里農場」の代表で、小川町で20年間、町議会議員を務めながら、多くの研修生を育ててきた金子美登さん、『コロナ時代の食と農』(新宿書房)を書き上げたばかりの吉田太郎さんと対談をしてほしいと声が掛かりました。

 

 さて、祭りの主役は、子どもたち。この日、子どもたちに馬車に乗るという体験を味わわせてあげたいと、ホースセラピーの第一人者、寄田勝彦さんも協力してくれたのです。オランダ生まれの馬は美しく、子どもたちに限らず、大人たちも目がキラキラと輝いていました。校庭には、オーガニックのぶどうジュースや有機野菜。雑穀スイーツやコロッケの店など6、7軒が出店。焼き芋屋や地ビール屋も有機ですが、さすがにたこ焼き屋は輸入小麦かと思えば、なんと大阪出身のご主人が、自分で育てた有機小麦を使っていました。

馬車に乗る親子

 

 

 

 小さな舞台では、町に移住し、地域活動に携わる人たちが次々と紹介され、間に地元のバンドの演奏や舞踏家のパフォーマンスも入ります。私たちの対談の間も、背後のジャングルジムやブランコでは、子どもたちが楽しそうに遊んでいます。話を聴けと強要もせず、奥では大人たちも食べたり、飲んだりしています。隣人祭りの企画者たちも、友子さん以外は移住者ばかりでした。中でも「小川オーガニックフェス」の企画者の一人、一般社団法人「ザ・オーガニック」代表の小原壮太郎さん、環境運動家のハッタケンタローさんは、東日本大震災を機に小川町に移住してきた人たちでした。本業はデザイナーのハッタさんが描いたポスターも印象的で、そのイメージ通りにあつらえられた小川町の和紙で折ったトリコロールの三角旗をあしらったテント。前日、企画者たちが、地域の子どもたちのために1日がかりで設置したそうです。

司会の金子友子さんとハッタケンタローさん

 

 

 

 コロナ禍で家にこもり、うつ病を患う人も増えているそうです。そんな今、無理せず、ソーシャルディスタンスも取れる、そしてあらためて地元を好きになれる、小さな、小さな食を囲んだ隣人祭りは、なんとも温かい試みでした。

 

 この日、対談の終わりに金子美登さんは、自宅の蔵を片付け、住民の誰もが自由に種にアクセスできる「種の図書館」を設立することを決意。そして「小川町移住サポートセンター」で働く八田さと子さんによれば、今年になって小川町では、店舗紹介や2拠点生活も含めて27人が移住。移住希望登録者は67人で前年比1・5倍だそうです。

 

 

 

島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家

1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生!』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。